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 ギュッとマグカップを握りしめ、そして口もギュッと閉じ、楓は俯く。 「……言いたくないことは言わんでもかまわん。けどあえて聞かせてもらうで?」  柾は一息つき、 「さっきの男はお前を追ってきたんやな? ……ヤクザには見えへんかったけど、サツでもない。俺は、私設のボディガードと違うかって思ってるんやけど、どないや?」  にこやかに覗き込まれて、楓はわずかに顔を歪め、必死で何かを口にしようとしては言葉を飲み込んだ。 「……あっ……あの、僕……」 「ん?」  急かしもせずにただ待ってくれる柾に、話してもいいのかもしれない、そう思うのに言葉が出ない。楓はひたすら心の中で葛藤する。 「僕……僕は……」  沈黙が続き、言ってしまえば楽になるという思いと、この人は自分を助けてくれるのだろうか、という疑問がせめぎあう。  そのうちに沈黙に絶え切れなくなって、思い切って口にする。 「僕は……人を……」 「うん」 「人を……殺して……しまいました……」  少しの沈黙に、楓が更にマグカップを強く握りしめた瞬間、ふわりと温かいものに包みこまれた。 「そっか」  何ごともなかったように、すとんと受け止められ、柾に抱きしめられていることに気付く。 「そっか、辛かったな。とりあえず今日はうちで寝な」     
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