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 柾の言葉に、初めて出会ったはずなのに、まるで昔から知っているかのように安心しきった楓は、意識を失うようにマグカップを握りしめたまま眠りに落ちる。柾はマグカップをそっと床に置き、楓を抱き上げ自分のベッドへと運ぶ。眠りながらも涙を流す楓の柔らかく、少し伸びた髪を梳きながら、 「大丈夫や、もう大丈夫や」 何度も何度も繰り返し呟いた。 「おまえは俺らの弟や。時任柊と柾の弟の楓や」  柾は額に手をあて、まるで言い聞かせるかのように囁く。楓の涙が消え、穏やかな寝息が出始めたことを確認し、柾は楓を起こさないように側を離れる。 「柊に連絡せなあかんな」  一人呟いて、メールにするかと悩みながら結局携帯電話に手をのばした。電話するにはかなり遅い時間だったにもかかわらず、柾から電話がくることがわかっていたかのように、柊はコールするかしないかのうちに出る。 「見つかったか?」  柊のその第一声に驚くことなく、 「ああ、見つかった」 と返した柾は、少し声のトーンを落として続けた。 「そやけど、柊、ちょっと手違いあったん違うやろか?」 「……どういうことや?」  柾は戸惑ったような、しかしそういうこともありかとどこか声に滲ませて言うが、柊はどういうことなのか全くわかっておらず、柾は少しの間をおいて困惑しながら言葉を口にする。 「楓、人殺した言うて俺の前に現れたんや。しかも人に追われて」 「……そうか。人殺したてな」 「とにかく柊、帰って来てや。俺一人やったらひょっとしたら手に負えんかもしれへん」     
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