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 柊はにっこり笑って、煙草の煙を吐きながら今にも抱き付かんばかりの楓に、やんわりと先に着替えるよう促す。大きくうなづいて、バタバタと騒がしく奥へ走って行く楓に苦笑しながら、 「柾、あの調子やったら大丈夫ちゃうか?」 と、のんびりした口調で少し小声になって柾に囁いた。 「多分、楓の記憶操作は大丈夫や。後は周りやな」 「やっかいか?」 「あいつは昨日、人殺した言うてたんや。大丈夫や思うんやけどどうも私設ボディガード動いてるみたいやし、正直多少不安は残ってんで。柊、ほんまに当分居てや?」 「ああ。そのつもりや」  柊は、その顔をインテリ風に見せている細いフレームの眼鏡をひょいっと上げる。その仕草がどこか気障っぽく、だが絵になることを知っている柾は、思わず眉間にシワを寄せ黙ってコーヒーのおかわりを置く。  冷然とした顔立ちで、何を考えているのかわからない目を、その細いフレームの眼鏡と漆黒の少し長めの髪で隠す柊は、一見、芸術家らしくも見え、放浪者のようにも見える。能面のように表情のない顔は、柾をからかう時にだけ僅かに崩れる。まるで『情熱』と言う言葉に程遠い雰囲気を醸し出す彼は、れっきとした芸術家で、写真集が出ればすぐに売れてしまうような、新鋭人気カメラマンである。     
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