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言葉は丁寧なのに、刺すような硬さがあった。
緒方さんは、あたしが診察ベッドから降りるのをさり気なくサポートしてくれていた。河井先生は。
「いいですね、緒方君とは今度ゆっくり」
楽しそうに言う河井先生に、緒方さんは軽く会釈するだけでした。心なしか、大人にしか分からない、空気だけのやり取りがあった気がしました。
そんな中で、白髪の先生は「お大事に。無理しちゃダメだよ」とにっこり微笑んでらした。
河井先生が、お家まで車で送ってくださったのだけど。帰り道、先生とてもご機嫌で。
「とりあえず、思ってたほど酷くはなってなかったみたいだね。良かった良かった」
「ありがとうございます」
あたしがお礼を言うと、車がちょうど赤信号で停車した。河井先生が、あたしを見て、また意味深な笑みを浮かべた。
この笑み、とっても苦手です。ちょっと身体を硬くして先生を見ていると。先生、フッと吹き出した。
「トラップ発動、なんてね」
「え?」
意味、分からないですよ?
首を傾げたあたしに先生は「独り言独り言」と楽しそうに言った。信号が青に変わって、車が発進。
「宮部さん」
先生は、前を向いたままお話を続ける。
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