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夫の専売特許の「大丈夫」。なんにでも過剰に反応し心配する私に、いつも「大丈夫」と言った。無責任だ、と私は怒ったけれど、結果はほとんどが大丈夫だった。大丈夫、大丈夫と自分に呪文をかける。
時々強めに吹いて私たちの白髪交じりの髪を揺らす風が心地いい。花粉症の夫は苦笑いしながらティッシュを探している。
「花びらが流れてく。川面にいっぱいだ。これもいいな」
「綺麗ね。見上げると青い空に桜。私、温かいお茶を水筒に入れてきたから、そこに腰掛けて飲む?」
「いいね、のどが渇いたから少しもらうよ」
薄緑色のプラスチックのマグカップに注いで渡す。
「来てよかったでしょ。次はハナミズキ? 藤の花? また一緒に散歩しよう。背筋伸ばして、おいしい空気、いっぱい吸って、ね」
〈了〉
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