今はとなりで ―― 夫と歩く

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△△  長男が結婚した翌年、夫にガンが見つかり、胃の全摘と食道の一部切除の手術を受けた。  夫は20年ほど毎年人間ドックでバリウムを飲み胃透視を受けていて、手術の前年末受けたドックでも異常はなかった。ただ、重度の貧血に要再検査とあった。男性の貧血は内臓出血の可能性が大きいとのことで、まず胃カメラ検査するようにとの指示もあった。  それから、検査、検査でバタバタと手術が決まり、入院となった。夫自身が身体の中の異常に何一つ気づいていなかったのだから、夫婦そろって何やら不穏な波にもまれているような気がした。  手術後、夫の身体から切り離されたものを目の前に執刀医が説明を始めた。それが存外に大きくて少し驚いたのを覚えている。 「大きいんですね」 「伸びきっているからです。中にあるときは縮んでいてもう少し小さいんですよ。ガンはこの部分から食道のこの部分に広がってます。他の部位は伸び縮みしますが、ほら、ここは色が悪くて硬くなっていて伸びない。胃だけでなく食道にも広がっていて予定より10㎝ほど多く切りました。胃の周りのリンパ節を取りましたので、一緒に検査に出してリンパへの転移があるのかないのかを見ます」  説明しながら夫の胃を手袋の手で広げ伸ばして見せる。前にもこんなことが……自分の盲腸、長男の扁桃、夫の盲腸、母の小腸……。
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