今はとなりで ―― 夫と歩く

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 腹が出て、太り気味だった夫の体重が15kgほど落ち、おなかがぺったんこになった。手術跡も気になるのか、腹周りに手を添えて背を丸くして歩くようになった。  あれから3年間飲み続けた抗ガン剤の処方が止み、安心しかけた私たちに定期的に撮っていたCT画像が新たな不安のもとを写し出した。  そして、新しく放射線と抗がん剤2種の合わせ技治療が始まった。まさにその最中だったのだ。ひどい副作用から抜け出し、仕事にも行けるようになっていたので油断していたのかもしれない。それで、嫁から聞いた二人めの計画話を面白い話のように夫にしていたのだった。  赤ちゃんは「授かりもの」なのだから予定通りになんかいきっこない、それに数年後、自分がこの世にいるかどうかもわからないのに、と冗談っぽく続けた言葉が「生きてればね」だった。  今、一番言わせてはいけない言葉だったのに私が言わせた。自分の口から出てしまった言葉を戻すこともできないし冗談ぽく言ったその言葉をあわてて否定すれば、かえって不自然になってしまう。夫の言葉も私の言葉を受けての冗談だとして「誰だっていつかは死ぬのだ」という当たり前の話として続けたのだった。
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