今はとなりで ―― 夫と歩く

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 そのときは、私も、多分夫もその治療が何らかの結果をもたらしてくれると思っていた。しかし、その治療を終える前にCT画像に治療中のものとは別の転移の影が。若い医師が言った。 「これも、これも怪しいです。今の抗ガン剤は効きが悪いということですので、薬を変えることを考えましょう。今すぐ、これで、とは決めかねますので、他の医師と相談します。来週には説明の時間をいただいて、遅くとも再来週には治療を始めたいと思います」  その医師の言葉は理解したが、転移についての話は頭の中の妄想や空想話で現実ではないのではないかと思えてくる。今、夢の中なんじゃないだろうか。悪い夢を見ているのではないか。夢であったならどんなにいいだろう。落ち着きたくて、夫と別れ、買い物をして家に帰った。 「まだ、子どもたちにも言わなくていいよね。決まってからで」  そう言うのが精いっぱいだった。 「俺、仕事行くわ。今週中にやらなきゃならない仕事があるから」  まだ、何も決まってないのだ。日常に戻っている夫を見習おう。私は彼の早めの昼の準備を始めた。
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