ひとつめ:カエデとバニラ

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ひとつめ:カエデとバニラ

 固く曲がりくねったあまり広くはない大地の上に、僕たちの先祖は町を設けた。歴史書に見るような肥えた土はなく、農作をできない僕たちは、かつての人々が残した歴史書を読み解きながら、古ぼけた機械を弄繰り回して飯を吐き出させるしかない。僕は今日もそのために家に籠り、偉い人たちから渡される本を読み漁りレポートを書かなきゃいけない。流石に作業が長時間続いたせいか、くらりと眩暈がした。ガシガシと頭を掻いて、本を閉じた。  木や葉を組み合わせて造られた簡素な家は、いよいよ本の重みに耐えられないんじゃないかというところまで来ている。コンコンという軽いノックの音も、この家にしてみたらまるで地震だ。僕はおそるおそる梯子を降りて軽やかなノックを響かせる木枠の扉を開ける。鍵はない。 「カエデさ~ん! 移動日決まりましたよ~!」  陽が差し込み、ぎゅうっと目を瞑っている間に、声の主はペラペラと話を続ける。 「どうも三日後から各自車輪付けを初めて一週間後には移動するみたいですよ! ということで不肖、バニラも手伝わせていただきます!」     
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