ひとつめ:カエデとバニラ

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 目が光に馴染んでくる。バニラ―彼女は僕の助手であり解読人見習いでもある―はトレードマークともいえる花びらのピンをふわりと揺らして居住まいを正した。大きな翠色の瞳はぱちりと瞬きして、そのあとにっこりと笑みを象った。 「三日後に車輪付けかぁ、なんか急だね? なんかあったのかな…しばらく外出てないからさ…」  僕はバニラをとりあえず家に上げると、椅子に座らせ飲み物でも出そうかと機械のある二階へと上る。僕たちが『機械』と呼ぶ様々な構造物は、ちいさな代償と引き換えに僕たちに飲食物を提供してくれる、重要な食資源である。一説によると先祖の頃から存在し、代々受け継がれてきた…はずだったのだが正確な使い方などは現在においては伝承されていない。元から言い伝えられていなかったのか、なんらかの原因で伝承が途絶えたのか定かではない。ともあれこの機械のおかげで僕らがメシを食えてるのは事実だ。  機械上部の蓋を開ける。つるりと滑らかなさわり心地だ。浅い受け皿のような部位があり、そこに小指サイズのちいさな木の実を4つ入れる。これで二人分だ。蓋を閉め、今度は筒状になった中央部分に据えられたボタンを押す。暫くすると、どんな原理か下部に置いたポットの中になみなみと液体が注がれる。大地とよく似た桧皮色のそれは、かつてコーヒーと呼ばれていた飲み物らしい。 「はいどうぞ」     
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