気が遠くなるほど

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 ここは、世界最大規模の刑務所『ロア・モースト』  現実であって、非現実な世界。賭博やドラッグ、暴力に殺人など、地獄絵図のような光景が毎日繰り広げられていた。    それも、表沙汰に出来ないような極悪非道な犯罪者が連れて来られるこの刑務所では、縛り付けることで、暴動でも起こされたら、手に負えないことから、内側で起きることについては目が瞑られてきた。  だが、囚人を逃がさないという点については、他の刑務所を圧倒する程に厳しいことでその名を世界に轟かせていた。  ――そんな中に、一人の『老人』がいた。  彼の名は『イオン・T・フィック』。若い頃に判決で終身刑を言い渡され、数十年経った今も服役している囚人だ。  見た目はやせ細っており、白髪まみれとなった頭髪はぼさぼさで、前髪は目も見えない程に伸びきっていた。  彼が服役している理由。それについて知るものはもういない。それほどに長い間、服役してしまった彼は、入所当初からずっと外に出たがっていた。この過酷な環境が嫌になったからとかそういった理由ではない。  ――彼には外で待つ人がいるのだ。  それが外に出たい唯一の理由だった。もちろん、彼なりには、色々な方法で脱獄を試みた。特に、入所当初は毎日のように、あらゆる方法を駆使して、外に出ようとしていたのだが、それが叶うことはなかった。  それどころか、彼が親しくしていた所内の脱獄仲間たちは、脱獄に失敗した際に『事故』として処理され、殺されてしまった。それもあり、今の彼は所内の誰とも話をしなくなり、すっかり塞ぎ込んでしまっていた。  それでもまだ、外に出ることを諦めてはいなかった。そんなある日、イオンは自身の運命を変える一人の男と出会った。  男の名前は『インク・スクウィッド』天然パーマに長身、細い体の割に引き締まった筋肉が特徴的な爽やかな男、それがイオンの男に対する第一印象だった。
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