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「そういうことだったのか。癖というのはすぐに直るものではないから仕方ないね」
笑ってそう言ったのだが彼は唇に手を置いて眉間に皺を寄せていた。
「癖なら尚更意識しないと直りません。間違えていいのは二度目まで。三度目は無いと教えられました。今から、ゆっくり、喋られるように頑張ります・・・」
悪い癖なら直さなければならないという考えなのだろう。癖なら仕方ないじゃないと言わんばかりの相手ばかり見てきたので、こちらも癖なら仕方ない、と思うようになっていたものだから彼には驚かされた。
久しぶりに自分と似た感性の持ち主に出会えたようで嬉しく思えた。
「丁度時間を持て余していたところなんだ。君がゆっくり話せるように練習相手になってあげるから、隣へ行ってもいいかな?」
ずっとここに立っていては人が集って来てしまいそうだった。
遠くの町ならいざ知らず、この町では自分の顔は大体の者が知っているだろう。アルファというのも重なって有り難いことに言い寄って来る女性も多い。 隣に女性を連れていなければ高確率で話し掛けられるとうのが当たり前になっていた。
今そうなれば彼にも迷惑が掛かってしまう。
「・・・お兄さんはもしかして、お尋ね者でしょうか?」
隣へ腰を下ろして「あまり周囲に顔がバレたくないんだよ」と伝えればそんな言葉が返ってきて、込み上げてくる笑いを堪えられない。
そうか。確かにそう考えるのは正しい。
彼はこちらの顔を見ていないのだから俺が誰であるかは知らないのだ。
「今更俺が言うのもおかしな話しだけど、アルファの俺が隣にいても平気なの?」
「僕はこうして目を瞑っています。襲おうとするならいつでも出来るはずです。態々僕の隣に来て隙を窺うまでも無く隙だらけなのにそうしない。だからお兄さんは良い人だと思っています。そうでなければ、変わった人だなぁという印象です」
「それじゃあ俺は変わった人だね、良い人ではないから。先日一緒にここへ来た女性は恋人だったんだけど、俺の方から振ってしまったんだ」
彼が自分を知らないからそんな要らない話をしてしまった。
急に見ず知らずの人様の恋愛話をされて困っただろうに一生懸命言葉を考えてくれていた。
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