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 本が日焼けしないようにとあまり陽の当たらない場所に作られたこの書斎(ライブラリー)は、あまり大きくなく壁面を書架で埋め尽くすように出来ている。あくまで仕事や調べ物の為にあって、家族団欒が出来るような大きな書斎は陽の光が入る別の場所に設けられている。  今の自分には日中でも電気を点けなければ薄暗いこちらの書斎の方が落ち着ける場所だった。  雨の日でもなければ来ることのなかったこの部屋にはまだ読んでいない本の方が圧倒的に多く、時間を潰すには最適だった。 とはいっても、時間を潰したところでその先の目処は立っていないのだけど。  ベロア生地のリクライニングチェアに腰掛けて本を読んでいると、静かにドアが開けられる音がした。  キーッとワゴンのタイヤが回る音と静かな足音が聞えて読んでいた本から顔を上げた。 「ラズール様、紅茶をお持ち致しました」  燕尾服に身を包んで一礼する彼はうちの執事の一人で間違いない。  自分よりも一つか二つか年下であるが、優秀な執事だ。こちらは友人のように接しているが、中々懐柔されてはくれない。妹の話では、彼は俺のことを年が近いのに素晴らしく人格のある人だと言って尊敬してくれているらしい。  慕ってくれているなら無理に馴れ馴れしくしろとは言えない。 「俺は頼んだ覚えはないよ、ジン」  意地悪くそう言ってみると慌てて頭を下げてくる彼も素直過ぎる。 「申し訳ありません。私の勝手な判断でお持ち致しました。最近のラズール様は元気がないようで旦那様も奥様も心配されています。勿論私も」  テーブルの上に積んだ本を隅に退けてティーカップを置いて湯気が立つ紅茶を注いぎながら言われた。  白いカップに赤茶の透明な液体は綺麗に見える。何の澱みもない綺麗な液体に、横に置かれたミルクピッチャーから中身を注ぐと透明から白く濁って底が見えなくなっていく。  自分の心境のようでボーッと見詰めたまま手を傾けたままでいると、カップから溢れる寸前のところでジンに手を掴まれて止められた。 「・・・ありがとう。少し魅入ってしまっていたよ」 「いいえラズール様。やはりお疲れです。それもかなり」  眉を顰めていつになく強く言ってくるジンに苦笑いが漏れた。彼に反発されたのは初めてだ。
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