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いつもの涼しげな爽やかな顔を歪めてしまっている。
「シェリー様と別れてから元気が無いのかと思っていましたが、よく思い出してみれば別れた直後それに前までは寧ろとても嬉しそうな顔をされていました。ですので私はてっきりラズール様は漸く本当の思い人に出会われたのかと思っていましたが、ここ最近は塞ぎ込んでこのような場所に入り浸っています。お体の具合が優れませんか?」
「・・・そう思うなら俺がその思い人に振られたとは考えないの?」
「考えられません。ラズール様が振られるのは晴天から槍が降ってくることを予想するくらい難しい。あり得ません。私には話して下さいませんか?ラズール様が何かに悩んでいるのならお力になりたいです」
誠心誠意応えてくれる彼にこのまま黙っておくのも心苦しかった。ただ事実をそのまま伝えるとそれはそれで心配されそうなので手にした本を見て一息吐いた。
隣にある椅子を引いて座るように促すと、迷いながらではあったが腰を下ろした。
スッと背筋を伸ばした綺麗な座り方があの子の面影に重なった。
「実はね、シェリーと別れた日に町で不思議なネコを見掛けたんだ」
「ネコですか。町中でということは野良ネコでしょうね」
「うん、そうだろうね」
ロイヤルミルクティーを通り越して最早ホットミルクと変わらぬ色になってしまった紅茶を啜った。味は完全にホットミルクだ。茶葉の香りが辛うじて紅茶であることを教えてくれる。
ジンは座ったまま素早くワゴンから布巾を取った。溢れてもすぐに拭けるようにと抜かりない。
「目を瞑って眠っているように見えたからね。触ってみたいと思って近付いたんだ。身体は汚れていたけれど可愛らしい顔立ちをしていたよ」
「はい。ラズール様は大変ネコが好きでいらっしゃいますのでその光景は容易に目に浮かびます」
「身体が小さかったから子猫かと思ったけど成猫かもしれない。まぁそれは置いておこう。急に触って驚かせてはいけないと思って声を掛けたんだ。そうしたら、にゃあって鈴の音のような綺麗な声で返してくれたんだ」
ティーカップから溢れんばかりでいた液面が下がったのを確認して、ジンは手に持っていた布巾を畳んでテーブルに置いた。
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