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序章
黒枠の手紙が届いた。
悲しい知らせだ。
しとしと降り注ぐ雨が冷えた空気と相まって身体から体温を奪っていく。
周りにいる皆も同じように黒服に身を包んで立っていた。棺が埋葬されるのを眺めながら。
小さな子供達は何が行われているのか分からずに、雨でも元気に辺りを走り回っていた。
その子供達よりは大きくしかしラズールよりは幼い、黒髪を腰まで伸ばした少女が葬儀屋に促され、最後の土をかけた。
「あの年で家族を一遍に失うとは可哀想に」
「しかしそうなると当主はあの子になるのかね?」
「いやあの子はオメガだ。それは不味い」
「何の因果か、養子で引き取ったあの子だけが生き残ってしまうとは」
大人達のそう話している声が雨粒に吸われて彼女に聞こえていなければいいと思った。
ラズールが少女を見るのは二度目だった。それでも彼女は印象深く記憶に残っていた。
初めて見たのは女王陛下の誕生会。
彼女は兄の後ろに隠れていて一度だけ顔を出した時も今と同じように目を伏せていた。瞳は見ていないけれど可愛らしい顔立ちをしていた。
今日一日その可愛らしい顔立ちを見ていたが一度も目蓋が上がることは無かった。
もしかしたら先天的に目が見えないのかもしれない。
貴族の大人達はお互いに交流があるが子供達には交流は滅多に無い。再び会ったのが今、葬儀の場。それも彼女の家族が亡くなった場であるので名前すらもかなわなかった。
彼女はこれからどうなるのだろうか。
子供である自分には何もしてあげられない。
ラズールはただ彼女を見ていることしか出来なかった。
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