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お店とお店の間の隙間にラズールの言う香水屋はあった。
野晒しの外に丸い小さなテーブルを置いて、その上に幾つかのガラスの小瓶を並べてあった。そのテーブルの向こうに艶やかな黒髪の少年が目を瞑って静かに椅子に腰掛けていた。
「これがお店?建物も構えていないようだけど」
「立派な建物でなくても物を売っているならお店だよ。シェリーは野菜や果物が売っている市場には行ったことがないだろうから、こういうお店を見るのは初めてだろうね」
フォローするつもりでそう言ったのだが、眉を顰めて嫌な物を見るようにどこか貶んだ視線を送るシェリーにラズールは心の中で溜め息を吐いた。
いずれは父親からその侯爵の爵位を受け継ぐ貴族の息子。恋人にする女性は容姿よりも感情よりもその人物の為人で選んできたつもりだった。自分だけでは無く、将来を共にすることを考えると、恋人もファーストレディに相応しい人物でなくては困ると思っていたのは、両親からそう言われたのでは無く、ラズール自身が思っていることだった。
貴族の娘は貴族の男性と結婚出来るように育てられるものだ。故に言葉遣いは綺麗であるし、立ち振る舞いもお淑やかで笑う際には口元を隠す。そして趣味は刺繍やピアノといった具合の女性が大体。シェリーもそうだった。
シェリーとは今までの付き合った女性の中では一番長い関係だった。しかし彼女もまたラズールの望むファーストレディには相応しくないようだった。
人である以上、様々な感情を持つことは当然でそれは感情豊かで良いことだ。しかし思ったその感情を全て口や態度に出せば素直かと言うと違うだろう。子供ではないのだから今の彼女の汚い物を見るような視線や態度は出さないべきである。
普段はラズールが気を使っているので恋人になった相手が不快な思いをすることは少ないが、女性の心は難しく、アルファであるラズールでさえも読み間違えてしまうことがある。そんな時に彼女達の躾けられた美しさの下にある本心が見えてくる。
そしてその本心は到底ファーストレディには相応しくないような卑しいものであったのが過去の恋人達。
結局シェリーと長く続いたのも、偶然ラズールが彼女の機嫌を損ねず怒らせることが無かっただけの話だった。
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