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 南の領地の中で最も小さな町シャリュトリューズ。  国の長が住む城からも離れたこの町はキルシュの町のように流行のお店も無ければ大きな劇場も無い。  しかしこの町は人々に天空の都と呼ばれていた。  何も夜な夜な眠れぬ死者が町を彷徨っているから、というわけではない。  馬車の小窓から見えてきたその町並みは相変わらず美しかった。  目に入るのは青と白。濃淡はあるものの全ての建物が青と白で色付けされていて、天の上にいるように錯覚する程美しい町並みを見た旅人が、天空の都と言ったことからそう呼ばれるようになったという。  書斎から持ち出した本はそれなりに厚い物で三冊あったが行きで全て読み終えてしまったが、丁度到着したから良かった。  お店の間というよりは家の間を馬車で駆けて行く。  太陽の陽が差して出来た影も黒ではなく深い青い色をしている。幻想的な御伽の世界へ迷い込んだようにも思える。  哀しい青ではない。感動と高揚を与える青だ。不治の病もこれを見れば治ってしまうのではないかと言うのは言い過ぎか。  その屋敷の門も青く、閉まった門の前で馬車は一度止まった。門の横に取り付けられたベルを鳴らすのを見ていると、程なくして屋敷の扉が開いてメイドが二人出て来た。  御者と言葉を交すと再び動きだし、長くないアプローチを通って屋敷の入り口に着いた。  門を閉めて戻って来たメイド二人が荷物を持って中へと促された。御者に「ありがとう。帰りも気を付けて」と言葉を掛けて足を進めた。  内装まで真っ青ということはなく、ダークブラウンの落ち着いたゴシック調。  玄関(エントランス)ホールで少し待たされたので大分久しぶりに訪れた屋敷をじっくり眺めた。壁に飾られた絵画は縁に埃が積もっていなくて綺麗にされていた。使用人が少なかったはずだがそれでも掃除は行き届いているようだ。  家令の彼が厳しいからだろうか。  噂をすれば影が差すとはよく言ったものだ。 「お待たせしてしまって申し訳ありません。お久しぶりですラズール様。お変わりない、ということもないようで」 「お久しぶりです。見ての通り身体は元気そのものなんですけどね」 「都会は便利ではありますが何かと目まぐるしいですからね。存分に羽を休めて行って下さい」   荷物を抱えたメイド達に指示を出して「こちらへどうぞ」と案内された。
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