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そんな息子も肺ガンで亡くなろうとしていた。発見した時にはSTAGE4で末期となっており、モルヒネで鎮痛するだけの治療が行われていた。煙草も吸わないのに肺ガンになるとは運が悪いとしか言いようがない。病院側の配慮でせめて最期はお父さんの隣でと言うことで元・医者の隣にベッドが運ばれてきた。元・医者はこれをチャンスとして命を分け与え息子を助けようとしたが手が届かずに息子に触れることは叶わない。息子はそのまま力尽き命の炎が尽きた。元・医者は息子を看取る事になってしまった。元・医者の99の蚯蚓腫れは100に戻っていた…… 僅かに動く首で目線を動かしそれを見た元・医者は絶望を100重ねたような気持ちになるのであった。
息子まで隣で死なれその生命まで吸ってまでの延命なぞ愚の骨頂。出来れば今すぐに死にたい…… だが、これまで他所様の命を呼び戻し理を捻じ曲げてきた元・医者に言う資格はない。
今にして思えばこれまで看取った100の命を貰ったのなら痣の数字は101になるはずだ。
もしかしてあいつは悪魔で自分の命を1つ捧げてこれまで看取ってきた他所様の命を100個授けたのかも知れない。ひょっとしたらあれは悪魔との契約だったのでは無いだろうか。契約らしい事は何もしていないので押し売りである。死神のくせにやることは悪魔じゃないか。
元・医者は死神に呼びかけ文句の一つも言ってやりたかったが死神と会うことは二度と無かった。気まぐれで良いから一度来てくれよと願うがその願いは叶わない。なぜなら「気まぐれ」なのだから。
この動けぬ身でいつ消えるとも知れぬ呪いの刺青(しせい)たる傷を眺めながら元・医者の人生はゆっくりと過ぎて行く。そう、ゆっくりと……
おわり
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