100

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「まぁそれよりご褒美です。これよりあなたには100の命が与えられます」 「どういうことだ」 「あなたがこれまで看取ってきた命100個があなたに与えられます」 「意味がわからないぞ」 「これだから人間は頭の血の巡りが悪い。つまりあなたの命は100個になるんです! 100回死ねる体になるんですよ。実に羨ましい!」 ちなみにそれを言う死神に死の概念は無い。そんな者に羨ましいと言われても嫌味以外の何者でもない。 「命は一人一個だから尊いんだ。そんなものはいらん」 「もう…… 人の命は地球より重いし、地球上にあるお金全部…… 大体5000兆円ぐらいでも買えない一つの命が100個もあるって素晴らしいとは思いませんか?」 「思わん」 刹那よりも早い返答だった。しかし、死神はそれをケラケラと笑いながら聞いていた。その尖った舌をホルマリン漬けにしてやろうか。こちとら検体の解剖で舌切雀の婆さんより手際のいいメスさばきと言われた身だ。瞬く間にスパッとやってやりたいぐらいだ。医者は命の概念がどこかおかしい死神に対して憎しみすら覚えていた。 「とにかく。100個の命大事に使ってくださいね~ 残りの命は左手に出るようになってますので宜しくお願いしますね」 「待て!」 医者は死神を止めようとするが一切聞き入れずに元の煙に戻っていく。そして先程パソコンから出たのと逆再生するようにその姿を消していった。姿を完全に消したその刹那、捨て台詞のように死神は言い残した。 「そうそう、命の用途は自由ですので、よく考えてお使い下さい」 「何だったんだあいつは」 医者はこんな真っ昼間に白昼夢とは認知症でも始まってきたかなと白衣の袖を捲り先程死神が言ったことを確かめた。 100 医者の左手の前腕部の内側には100の形をした蚯蚓腫れが出来ていた。手術着は長袖だからまぁ良いとして、夏場はどうしようか、夏場も長袖の白衣を着る医者も多いことだし問題は無い。医者は100の蚯蚓腫れのことは余り気にする様子は無かった。
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