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次に考えたのは本当に100の命があるかどうかと言うことであった。もしかしてあの死神口だけで100の蚯蚓腫れだけ作ってお試死(おためし)に自殺したところを魂回収するつもりではないだろうか。一度死ねと言われてもそう簡単に死ねる訳がない。死ぬのも一苦労なのだ。
このまま寿命を迎えてやっと1減って99になったらそのまま一気にカウントダウンみたいに減っていくのだろうか。あの死神、ロクな説明もせずに去りやがった。人に何かをするなら説明を忘れるなと小学生でも出来ることも出来ないのだろうか。でもあれは死神。人の概念が通じる相手ではないと諦めることにした。
医者が100個の命を貰って数日後、急患で来た青年の命の炎が燃え尽きようとしていた。隣の県で起こった交通事故なのだが、今日日よくあるベッド不足受け入れ拒否が続き、たらい回しとなっていた。そして最後に辿り着いたのがこの病院であった。やっとの事で治療は施されたものの時は既に遅く心電図も僅かな反応が残るのみとなっていた。医者は諦めずに心臓マッサージを施すが……
心電図の音がぴこんぴこんと言うリズムを刻むものからぴーと言う何とも不安になる電子音に変わった。ああ、こんな若い子が病院をたらい回しになった上で亡くなるとは何と言う甲斐のない。何とか助けてやれないかと思うが心電図は無情なモスキート音を思わせる鎮魂歌を歌う。医者が心電図の電源を切ろうとしたその時、袖がずるりと捲れて100の蚯蚓腫れが見えた。その時、死神が最後に言った言葉が医者の頭の中を擡げた。
「そうそう、命の用途は自由ですので、よく考えてお使い下さい」
これならば命を分け与えることも出来るはずだ。この青年は私が助ける! 医者は袖を戻し、決意に満ちた表情をして氷の様に冷たくなりゆく青年の真っ青な顔をじっと見た。
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