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「先生、時間の方を」 看護師が死亡時刻の確認の催促をする。医者はそれを無視して今しがた命の尽きた青年の胸に手を乗せて、自分の命を一つ分け与えるように念じた。すると、心電図が再びぴこんぴこんと波長を刻み始めた。医者にはその波長音が天使のかき鳴らす喇叭が鳴らす歓喜のメロディに聴こえるのであった。それにハーモニーを合わせるように青年は「はぁはぁ」と息を吐いた。 「先生! 息を吹き返しました」 「ああ、もう大丈夫だから病室にお運びして」 医者は医局で休憩を摂っていた。亡くなったはずの命を救えた事に医師生活30年始まって以来最高の至上の歓喜を得ながらガムシロップをたっぷりと入れたアイスミルクで一人で乾杯をしていた。ふと左手前腕部の100の蚯蚓腫れを見ると99に数が変わっていた。 「本当かよ」 医者はこの命を分け与える力を最大限行使し、医者としての使命を全うすることを誓うのであった。  それから医者は亡くなった命の復活に全力を投じた。病院であれば最期を迎える患者は悲しいながら珍しい事ではない。今際の際を迎える患者がいると聞けば科を問わずにすぐに飛んで行き、同僚が「ご臨終です」と死の宣告をする中そっと亡くなったばかりの患者の手に触れて命を分け与える。すると、患者は息を吹き返す。こうして生き返った命は体の損傷、病症なども不思議と治療される故に数日後には健康体で退院していく。一度「死ぬ」ことで体がリセットされて健康体になるのだろうとこの奇跡を感謝するのだった。  
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