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そんなことを続けているうちに蚯蚓腫れの数が56まで減っていた。44人も助けていいことをしたなあと思う半面、自分の命の数が減っていることにも気が付き急に不安になるのだった。 「これ、目の前で亡くなったりしたら増えるのかなぁ」 医者の心に巣食う悪魔が耳元で囁いた。医者として目の前の命をそのまま見捨てるようなことをしていいのだろうか。ましてや自分はそれを捻じ曲げ救う力があるの。しかし、試さずにはいられなかった。医者は久方ぶりに患者の最期を看取った。後はこのまま分け与えなければ…… 医者の読みは正しかった。患者を看取りそのままにした。どうせ死ぬ患者だったんだ、私は悪くない。懸命の治療だって施したのだから感謝されてもいいぐらいだ。医者は恐る恐る左袖を捲った。蚯蚓腫れの数字は57に増えていた。それを見て悪魔が更に耳元で囁く「後々の事を考えて命増やしとかないか」と。  数日後、医者は風の吹き荒れる町中を歩いていた。台風が近づいて来てるわけでも無く、単なる風が強いだけの日である。その強風はビルに付けられた看板をグラグラと揺らしていた。医者はその看板を危ないなぁと真下を避けて歩いていた。その時、急な突風が走り、錆びついていたビスがボロりと崩れた。看板が音もなく落ち看板近くを歩いていた医者が下敷きとなってしまった。看板の下敷きになった瞬間に意識が途切れ、命を失った。しかし、直ぐ様に意識を取り戻し看板の下から這い出た。それを見ていた野次馬達はそれを奇跡と思い驚く。医者はそれに構わずに蚯蚓腫れの数字を眺めた。自分の命を消費したことにより56に数値が減っていた。それを見て医者は不安を覚えた。 「やばい。後56回しか死ねないのか」 むしろ落ちてきた看板がもっと大きくて何人も巻き込まれていれば医者が看取ったことになるから数字が増えていたかも知れない。役に立たない看板だ。医者は舌打ちをしながら歩を進めるのであった。
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