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医者は変わった。常時自分の命が一定以上無いと不安になるようになったのだ。この前の様に急な事故がいつ起きないとも限らない。もし、大量に命を分け与えて残りが1になった時に事故に遭ったらお終いじゃないか。そんなことにならないように常時自分の命に余裕を持ちたいと思うようになった次第である。最近に至っては治療の手を抜き、死に導くようなことをするようになっていた。
「ご臨終です」と、俯きながら言うその内心は「やった! 俺の命が増える!」と舌を出してガッツポーズをしながら喜んでいた。遺族の見えないところで袖を捲り増えた数字を見てニヤリと笑うことが医者にとっての患者の最期を看取るシークエンスになっていた。
目の前で人を看取っても後から別の人を救えばこれでイーブンだろう。いつしかこの考えが医者の心の中を支配するようになり、生殺与奪は私が握っているんだぞと言う傲慢さを持つようになっていた。
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