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「きょ、今日はそのぅ……久しぶりにどこか行かないかい? せっかく二人きり、な、わけだし」
緊張してるのが見え見え。何でそんなに目ぇ泳いでるんだか。
「いいけど? どこ行くの」
ソファに体を投げ出しながらおなかの上に広げたファッション誌を見るともなく、昨日塗ったネイルの仕上がり具合をうっすら眺めていた私は、鼻から息を抜きながらも、そう言ってあげる。そ、そうだなー、と、喜びを隠せてない顔で何やらタブレットで調べてるフリしてるけど。
何日か前から、いろいろ準備してたの知ってるのよねー。その端末、私も入れちゃうんだなー、今時4桁のPINに自分の誕生日を設定しちゃダメでしょぉ、個人情報漏洩。ま、家庭の平和を守るためには、気付かないフリするのが吉だけど。脇が甘いのよ、文平くん。
文平って読むんだよ、って初対面の時に言われたけれど、誰も初見じゃ読めないって。だから私は初めに頭によぎった「モンペーくん」でずっと通している。面と向かって呼ぶことはまあ無いけど。それより。
わざわざ有給取って、心愛ちゃんは、ばあばの所に行かせて。もしかしてぇ、冷え切った私との関係を昔のように戻したいのかな? それは別にいいんだけれど、全部が全部、消臭しきれないほどに、わざとらしいのよね。
今日という日を選んだのも、そう。
3年目ってことでしょ? 自分は何も気づいてませんよ、って顔してるけど、女の方が記念日とか普通に覚えているから。
壊滅的に下手なサプライズ。その下手さのほうが驚きよねー、なんて思いつつも、実は少しきゅんとしている自分がいるのも感じている。
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