御陵の困りごと:創作予定 ――平面世界系『#20.復楽園』――

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御陵の困りごと:創作予定 ――平面世界系『#20.復楽園』――

 突然ですが、御陵の不人気作品『#18.失楽園』。  この話、結局のところ登場人物は誰ひとりとして救済されてはいないので、作者として救ってあげたい、と常々思っております。  ですが、この『#18.失楽園』が、ミルトンの失楽園のフレームを敷衍し、ドレの銅版画をモチーフにしている以上、対になるはずの話も、ミルトンの著作とドレの銅版画を取り上げたい。  そう思った御陵は、いろいろと調べてみました。  その結果……、見付けました。  『失楽園(Paradise Lost)』と対になるミルトンの著作。  その名も『復楽園(Paradise Regained)』。  『失楽園』と対になるにしては、えらくマイナーで、ネットでも資料が少ないな……、と思いつつ、『復楽園』を入するべく、ネットの渉猟を始めた御陵。  ……が、どれだけ探しても『復楽園』を売っているという情報は皆無。 通販も古書店も、在庫情報なし。  『失楽園』は岩波書店ほか、複数の出版社から刊行されていて、普通に入手できるというのに、『復楽園』は一体どうなっているんだか。  一体どんだけ不人気なんだ、と不審に思いつつ、仕方なく県内の図書館の蔵書情報を調べたところ……、一冊だけ発見。  保管場所は、愛知県名古屋市のある市立図書館。  御陵は仕方なく、仕事の帰りに車で一時間かけて図書館まで出向き、閉館間際に『復楽園』の借り出しに成功しました。  さて、御陵が借り出した標的の表題は『復樂園』(改造社)。  そう、旧字体で、刊行年は昭和十一年二月。  定価は二圓。  ……ちょっと待て。  何でこんな古いのしかないんだよ。  もっと新しい翻訳はないのか。  などと思いつつも、ハードカバーの汚れきった表紙を開き、それでも御陵はワクワクしながら読み始めたのですが……。  読み始めて十数ページ辺りのところで、刊行が少ない理由が分かってきました。    ――すこぶるつまらない――  いえ、確かにミルトンの著作なので、詩文としてはすごく良いのですが、あの『失楽園』の活き活きとした魔王たち、アダムとイブの苦悩はどこ行った……?  『復楽園』のテーマは、新約聖書のイエスの荒野の試み。  アダムが失った「楽園」を、イエスがサタンの三つの誘惑を退けて地上に再興する、そんなお話です。  極めてオーソドックスで、真面目な信仰文学だとは思うのですが、やはり『失楽園』に漲るピカレスクなエネルギーは、もはやどこにもない……。    名前の登場する魔王も、サタンを除いてはベリアルのみ、という閑散振り。  そのせいか、ドレの銅版画も『復楽園』をテーマにした様子は見当たらず。 (いや、探し方が足りないだけかも……)    どうやらミルトンは、当時『失楽園』で悪魔を魅力的に書き過ぎている、という批判を受けたらしく、その反駁のアリバイに『復楽園』を書いた、という話があるそうで。    『失楽園』に比べ、御陵が感じた『復楽園』に漂う変なしおらしさとやる気のなさは、その辺りに原因があるのかも。  ……イエスの荒野の試みを、どうやって平面世界系#18につなぎ、さらに#20へ収斂させようか、思案に暮れている御陵でした。     ああ、プロットができるのさえ、いつになるんだか……。  
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