1パウンドずつ

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ーーーー バタンっ、と、外から音がした。 車のドアが閉まる音だと、すぐにわかった。 慌てて時計を見る。 出発の時間はまだなはずなのに。 私はラッピングされた袋をもって、慌てて外へ出る。 靴がうまく履けないから、踵を潰しちゃった。でも、きっと後悔しない。 「美沙ちゃん!! 」 外に出ると、車の脇に、ママが立っていた。 ママは私の声に気づいたみたいで、慌てて車の中に声をかける。 私は地面を蹴って走る。 ほんの10mくらいの距離が、とても長く見える。 「美沙ちゃん! 」 「ひーちゃん! 」 美沙ちゃんは、車から降りてきてくれた。 「久しぶり。」 小さい頃から見ていたのと、変わらない笑顔で。変わらない声で。 美沙ちゃんは、私を見て、私に話しかけてくれる。 「美沙ちゃん....これ.....」 私は、さっきラッピングした袋を渡す。 「....パウンドケーキ? 」 「うん。」 「ひーちゃんが作ったの? 1人で? 」 「うん。」 「火傷しなかった? 」 「うん。」 「そっかぁ....。ひーちゃん。大きくなったねぇ。」 私の髪を、あったかい手で優しく撫でてくれる美沙ちゃん。 綺麗だなって。素敵だなって。 「1番最初に、一緒に作ったね。」 「うん。」 「ひーちゃんあの時、小学生だったっけ? 」 「うん。」 「....もう、ひーちゃん。」 甘くていい匂いがして。 いつもの落ち着く匂いで。 私は、ぎゅうっと、美沙ちゃんに抱きしめられた。 「ひーちゃん。泣かないでよ。」 そう言われたら、今まで我慢していた細い糸がプツリと切れたみたいに。 涙が止まらなくなった。 みさちゃん。美沙ちゃん。 私が大好きだった、隣のお家のお姉ちゃん。 本当のお姉ちゃんみたいに、一緒にいて。 当たり前に、いつも一緒で。 ずっと、なんとなく、ぼんやりと、これからも一緒だと思ってた。 いなくなるわけじゃないのに。 またすぐ会えるのに。 それでも、お隣に行っても、もういないことが。 会う約束をしなきゃ、もう会えないことが。 寂しくて、切なくて、取られたみたいで、悔しくて。今まで沢山の思い出を貰ったんだなぁって、幸せで。 「ほら、泣かないの。」 私の背中をぽんぽんと、小さい子をあやすように美沙ちゃんは優しく叩く。 もう。 だから、もう子どもじゃないのになぁ。
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