1人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーー
バタンっ、と、外から音がした。
車のドアが閉まる音だと、すぐにわかった。
慌てて時計を見る。
出発の時間はまだなはずなのに。
私はラッピングされた袋をもって、慌てて外へ出る。
靴がうまく履けないから、踵を潰しちゃった。でも、きっと後悔しない。
「美沙ちゃん!! 」
外に出ると、車の脇に、ママが立っていた。
ママは私の声に気づいたみたいで、慌てて車の中に声をかける。
私は地面を蹴って走る。
ほんの10mくらいの距離が、とても長く見える。
「美沙ちゃん! 」
「ひーちゃん! 」
美沙ちゃんは、車から降りてきてくれた。
「久しぶり。」
小さい頃から見ていたのと、変わらない笑顔で。変わらない声で。
美沙ちゃんは、私を見て、私に話しかけてくれる。
「美沙ちゃん....これ.....」
私は、さっきラッピングした袋を渡す。
「....パウンドケーキ? 」
「うん。」
「ひーちゃんが作ったの? 1人で? 」
「うん。」
「火傷しなかった? 」
「うん。」
「そっかぁ....。ひーちゃん。大きくなったねぇ。」
私の髪を、あったかい手で優しく撫でてくれる美沙ちゃん。
綺麗だなって。素敵だなって。
「1番最初に、一緒に作ったね。」
「うん。」
「ひーちゃんあの時、小学生だったっけ? 」
「うん。」
「....もう、ひーちゃん。」
甘くていい匂いがして。
いつもの落ち着く匂いで。
私は、ぎゅうっと、美沙ちゃんに抱きしめられた。
「ひーちゃん。泣かないでよ。」
そう言われたら、今まで我慢していた細い糸がプツリと切れたみたいに。
涙が止まらなくなった。
みさちゃん。美沙ちゃん。
私が大好きだった、隣のお家のお姉ちゃん。
本当のお姉ちゃんみたいに、一緒にいて。
当たり前に、いつも一緒で。
ずっと、なんとなく、ぼんやりと、これからも一緒だと思ってた。
いなくなるわけじゃないのに。
またすぐ会えるのに。
それでも、お隣に行っても、もういないことが。
会う約束をしなきゃ、もう会えないことが。
寂しくて、切なくて、取られたみたいで、悔しくて。今まで沢山の思い出を貰ったんだなぁって、幸せで。
「ほら、泣かないの。」
私の背中をぽんぽんと、小さい子をあやすように美沙ちゃんは優しく叩く。
もう。
だから、もう子どもじゃないのになぁ。
最初のコメントを投稿しよう!