それは突然に

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 屋根から突然、黒い小さな影が瞬の横をすり抜けていったのだ。不意をつかれた瞬はビールを吹き出しそうになった。必死にそれを目で追っていくと、黒い影は部屋へ侵入し、あっという間にベッドの下へ身を隠した。  突然の侵入者にゴクリと喉元を動かす。そろりと部屋に戻ると、その影が潜んでいるであろうベッドの下を覗き込んでみた。暗い隙間から赤く光る二つの丸が見える。  瞬は思わず身構えた。  一度距離を置き、一呼吸入れてからもう一度、覗き込んでみた。影が動く。今度はそれが瞬に襲い掛かってきた。 「うわっ!!」  瞬は尻を床に落とした。  残りの串団子が皿ごと宙を舞う。慌てて、近くにあった文庫本を握りしめ、防御体制に入った。 「ね、猫?」  目を(まばたか)せる。その得体のしれない黒い影は猫だった。  黒猫だ。  まだ子猫なのか体は小さく華奢で、薄汚れていた。  猫は瞬の顔をじっと見て動かない。瞬もまた同じように猫を見て動かない。対峙するように、じっと睨み合う。  猫は様子を伺いながらゆっくりと前足を上げると、その緊迫感を唐突に破ってきた。目線が床に転がった串団子に向けられると、猫は自分の顔と団子を行ったり来たりさせる。  瞬はしっかり結ばれていた口元をゆるませた。その行動を見ていると、なんだか笑えてきたのだ。瞬はゆっくり串団子に手を伸ばしてみる。猫はピクっと身体を強張せた。
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