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「うまいか?」
猫に尋ねてみる。猫は夢中で団子を舐めていた。外を見てみるともう雨は止んでいた。
通り雨か……。
きっと、屋根で寝ていた猫が、突然、雨に打たれて降りてきたんだと察した。
串団子を見ると、タレだけが綺麗に取り除かれ、露わになった白い餅だけがそこにはあった。なにかその団子が寂しげにみえた。
猫は満月のようなキョロっとした丸い目をこちらに向けてきた。
「そんな、物欲しげにされてもな……」
瞬は頭を掻く。
猫は首を傾げると、そろそろとベランダに出て、ひょいと木格子に飛び乗ったかと思うと、そのまま屋根に飛び上がっていった。
瞬は猫のあとを目で追いながらベランダに出ると、屋根を覗き込んで辺りを見渡した。
さっきの猫は隣の平屋の瓦屋根を歩いていた。ちょうどその屋根は、自分の住んでいるベランダと同じくらいの高さだった。猫は先隣のほたる荘の二階の窓際に向かっていた。
ほたる荘は、築四十五年のかなり年季が入ったアパートだ。
電気が点いている。
じっと窺っていると、中で人の動く影が見えた。猫が爪で窓をガリガリしていると、そこが開き、小皿を持った女性が現れた。小皿を猫の前に差し出している。
餌だ。
瞬は身構える。女性がこっちに気づいたのだ。瞬は慌てて部屋に入り、息を凝らした。
彼女にじっと見られた瞬間、心臓が高鳴り出した。
ベッドに倒れ込み、胸をおさえてもう一度、思い返す。
「ダメだ……」
鼓動が早まる。
月が明るく辺りを照らしていた。彼女はそれに照らされ、とても神秘的だった。淡く照らされた肌は白く美しく、黒くて長い真っ直ぐな髪は夜風に揺れていた。見つめられた時、瞬は生唾を飲み込んでいた。
まさかこれが一目ぼれというやつなのかと、恥ずかしさのあまり毛布を顔に被せた。
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