星を掴んで

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「雨?」  雨の音がした。そのまま眠ってしまったようだ。起きた頃には部屋は真っ暗だった。慌てて電気を点け、窓を開けてみる。小ぶりの粒が空から落ちていた。顔をしかめる。ベランダに出て、すぐに洗濯物を取り込むと居間に置かれてあったさっきの段ボールが目に付いた。小さく息を吐く。  今日は休日だった。しかし、何をすることもなく終わってしまった。鈴子に貰った野菜を冷蔵庫に保管すると、ヤカンに水を入れ火にかけ、おもむろに台所の棚を開けた。今日は何も作る気が起きない。こういう時のためにいくつか買っておいたカップラーメンがあって良かった。美帆は味噌ラーメンを取り出した。  これでいっか。  お湯を入れて三分待っている間、居間の壁にかけられた時計に目がいった。 「あ!」  美帆は慌ててあるものを用意し始めた。小皿にキャットフードを入れはじめたのだ。もうすぐ来る時間だ。じっと待ち構える。  ――ガリガリガリ  来た。  窓のところから爪を研ぐ音。大体、いつも同じ時間にやって来るのだ。窓を開け、美帆は口角を上げる。そこには小さな黒猫が待っていた。 「はい」 小皿を猫に差し出す。 「おいしい?」  猫は必死でそれを食べる。ふと顔を上げてみると、先隣の家から男がこちらを見ていた。じっと窺っていると、急に男は部屋に入ってしまった。美帆は訝しげに首を傾げた。 「あ、そういえば」  空を見ると、もう雨はすっかり止んでいた。
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