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数えるたびに、それが少しずつ、浮き出ていきます。湯船に浮かぶ髪の毛が、触れそうで、思わず身をよじりました。
「きゅ。じゅ、ろく、きゅじゅ、なな」
それが人の頭であることは明らかでした。
「きゅうじゅ、は、ち」
もう少しで。
「きゅうじゅ、きゅ」
あと、ほんの少しで、それの目が見えそうでした。
その途端、全身を悪漢が走り、「おかあさーん!!」と、叫びながら湯船から飛び出しました。急いで風呂場から出ると、外に母の姿がありません。どういうことかと濡れたまま呆けていると、祖母がやってきて言いました。
「何しとるがね、大声出して。お母さんは町内の集まりだろうが」
祖母は濡れたままの私の頭を、タオルで拭いてくれました。
そうです。
この日母は、町内会の集まりで父と出かけて、家には祖母と私の二人きりでした。
湯船から出てこようとした女と、風呂場の外にいた母さんの真似をした誰かが何だったのか、今でも分かりません。
ただあの時、あいつらは私に100まで数えさせようとしているようでした。
湯船に浸かったまま、100数えていたら。
そう思うと、大人になった今でも、湯船にゆっくり浸かれないのです。
湯船から何か、出てくる気がして。
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