100数えたら

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100数えたら

 幼い頃は風呂に入るのがあまり好きではなくてね。カラスの行水なんて祖母に怒られたものですよ。  小学校に上がる前までは母親と入っていたのですけど、いい加減一人で入れと父親に言われましてね。  一人で入るようになってからは、益々風呂に入る時間が短くなって、母に「湯船で100数えてから出なさい」と言いつけられました。  母は一緒には入らない癖に、風呂の入り口で待っているのです。声に出して数えないといけないので、きちんとやらないと外にいる母にバレてしまうのですね。  あれは夏の終わりの頃でしょうか。まだまだ暑くて、窓を開けて風呂に入っていました。  「たけちゃん、体と頭を洗ってから、湯船に入るのよ」、風呂場の外から母が言います。暑いのに、体を温めるなんて意味がないと思いながら、「はあい」と返事をしました。  風呂場の扉は半透明で、私が風呂に入るとすぐに母の人影が映るのでした。  私は石鹸で体と頭を洗い、当時はシャワーなんてものはありませんから、洗面器で体を流してから、ザブンと湯船にはいりました。ゆらゆらと水面が揺れ、やがて収まります。 「いーち、にーぃ」     
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