100数えたら

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 風呂場の外にいる母の人影が、まだいることを確認しながら、私は数え始めました。 「さーん、しーぃ、ごーぉ」  風呂場の壁には所々、小さな穴が開いていました。虫が食ってしまって、そこから蟻とか小さい虫が入ってくるんですね。蟻なら良いんですけど、たまに大きな蜘蛛が風呂場にいることもあって、その場合は辟易しました。 「ろー、」  ぽとん。  湯船に、何かが落ちたようでした。しかし、その姿は見えません。 「く」  私の体は湯船の中で、固まりました。窓を開けていたことを後悔しました。  頭の中には、以前、窓から入り湯船に落ちた、巨大な蛾のことを思い出していました。バタバタと水面でもがいた後、絶命しました。鱗粉のようなものも水面に浮いており、一瞬とは言え一緒の湯船に浸かっていたことに、ゾッとした覚えがあります。 「かあさん」  私は思わず、母を呼びました。母の返事はありません。 「母さんてば」  母の人影はすごそこにありますか、やはり返事はありません。 「しーち、はーち」  諦めた私は、仕方なく数えを再開しました。きちんと100まで数えないと、母が父に何を言うか分かりません。  蛾は怖いですが、父はもっと怖かったのです。  幸い、音はしましたが何も浮いてきません。虫が落ちたのではないでしょう。     
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