4人が本棚に入れています
本棚に追加
風呂場の外にいる母の人影が、まだいることを確認しながら、私は数え始めました。
「さーん、しーぃ、ごーぉ」
風呂場の壁には所々、小さな穴が開いていました。虫が食ってしまって、そこから蟻とか小さい虫が入ってくるんですね。蟻なら良いんですけど、たまに大きな蜘蛛が風呂場にいることもあって、その場合は辟易しました。
「ろー、」
ぽとん。
湯船に、何かが落ちたようでした。しかし、その姿は見えません。
「く」
私の体は湯船の中で、固まりました。窓を開けていたことを後悔しました。
頭の中には、以前、窓から入り湯船に落ちた、巨大な蛾のことを思い出していました。バタバタと水面でもがいた後、絶命しました。鱗粉のようなものも水面に浮いており、一瞬とは言え一緒の湯船に浸かっていたことに、ゾッとした覚えがあります。
「かあさん」
私は思わず、母を呼びました。母の返事はありません。
「母さんてば」
母の人影はすごそこにありますか、やはり返事はありません。
「しーち、はーち」
諦めた私は、仕方なく数えを再開しました。きちんと100まで数えないと、母が父に何を言うか分かりません。
蛾は怖いですが、父はもっと怖かったのです。
幸い、音はしましたが何も浮いてきません。虫が落ちたのではないでしょう。
最初のコメントを投稿しよう!