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「きゅう、じゅう、じゅういち」
とにかくはやく数えてしまおう。
普段よりペースを早めて、言うことにしました。その甲斐あって、いつもより早く数え終わりそうでした。
「はちじゅいっち、はちじゅに」
さぁ、後半です。
もう少しだと思った時でした。
ぽちゃ。
また、音がしました。落ちてきたものはありません。何も浮いても来ません。
何かが、おかしい。
夕方とはいえ、残暑の中、温かい湯船に浸かっているのに、冷たい汗が背中を通りました。
湯船の中に、髪の毛が見えます。
私のものではありません。母や祖母のような、長い女性の髪です。
「か、かあ、さん」
「なぁに?」
今度は返事がありました。少しホッとして、私は話しました。
「風呂に何かいるよ。もう出ていい?」
「だめよ。100まで数えないと」
「でもーー」
「ちゃんとやらないと、お父さんに言いつけますよ」
風呂場の外にいる母は、無情にもそう告げました。
そんな!
異常事態なのに!
外にいる母には分からないのです。
「きゅうじゅいち、きゅうじゅ、に」
震えながら、何とか数えます。この時も、やはり父に言われるのが嫌だったのです。
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