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「お金ならいらないよ。」
突然お店の奥から声が聞こえてきた。しかし、姿は見えない。二人は暗くなっているお店の奥をじっと見つめる。何かが動いているのはわかるが、それがなんなのかはわからない。後退りする友見とは対称に夜実は暗闇へと進んでいった。
「夜実ちゃん、あ、危ないよ・・・!か、帰ろうよぉ!」
「友見ちゃんはそこで待ってて!私一人でも大丈夫だから。」
夜実の姿が店の奥へと消えていく。薄明かりが点滅し、友見の恐怖心を煽っていた。
「夜実ちゃんが平気でも私が平気じゃないよぉ!」
友見は夜実を追いかけた。暗闇への怖さから、友見はしきりに周りを見ながら歩いていく。すると、不意に何かにぶつかり、尻餅をついてしまう。
「ひゃっ!?・・・・あ、夜実ちゃん?!」
そこには夜実が立っていた。友見に気づいた夜実は右手の人差し指を口に当てて、
「・・・しー。」
と、静かにするように促した。友見は両手を口に当てる。
「見て、あれ。」
小さな声で、夜実が指差した先には、色とりどりの風船が浮かんでいる。その真ん中にひときわ大きな風船があった。ピエロの顔の形をしているようだ。ニヤリと笑っている。非常灯がついているのか、緑色に写し出されるその顔は余計に不気味に見えた。友見は泣きそうになるのを堪えて、夜実へ視線を向ける。
「さっきの声、あれじゃないかしら?」
凛としたいつもの夜実の言葉に友見の恐怖は少しだけ和らいだ。
「だって、人がいる気配はないもの。」
「どこかに隠れてるとか・・・?」
「どうかしらね?」
友見は気づいた。いつも通りなのではない。僅かだが、夜実の口角が上がっている。楽しんでいるんだ。友人の様子に友見は不安な気持ちが高まる。
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