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いなくなった夕焼け
その日、友見は教室へ忘れ物をした。帰り道に気がついて取りに戻るか悩む。
「不審者が出るから、早めに帰りなさい。」
担任の先生はそう言っていた。だから、学校も四時間目までで終わっている。ただ、忘れ物という単語が妙に心に引っ掛かった。宿題でもないし、今日持って帰らなくてもいいものだ。それでも、なんだか気になって仕方ない。
「友見ちゃん、何してるの?」
突然声をかけられた。振り替えると、夜実が立っている。不思議そうにこちらを見ていた。友見は、少し戸惑ってから、
「あ、ちょっと・・・忘れ物しちゃって・・・・。」
と、答える。夜実がニヤリと笑う。
「友見ちゃんは少し抜けてるね。」
「そうかなぁ。」
「そうだよ。でも今日は早く帰った方がいいんじゃない?」
夜実は、友見に帰るように促す。友見もその方がいいような気持ちになった。しかし、どこか居心地が悪い。
「そんなに気になるの?」
「うーん・・・・少しだけ。」
「・・・何を忘れたの?」
「キーホルダー、ウサギと鈴が付いてるやつ。」
それは友見が父親から貰った物だった。いつもは筆箱につけているのだが、紐が緩んで外れてしまったのだ。授業中だったので結び直さず机の中に仕舞い込み、現在に至る。
「・・・それ、明日じゃダメなの?」
「大丈夫、だけど・・・・。」
「なら、帰ろう?危ないよ。」
夜実は、友見の手を掴んだ。
「うん。」
一緒に青空の下を歩いて帰る。なんだか、友見には夢のように思えた。夜実はクラスでも人気者で、端っこでいる友見には雲の上のような存在である。そんな夜実が友見と仲良くなったのは、誰もいない教室での出来事だった。一人で本を読んでいた友見に夜実から声をかけたのだ。
「何読んでるの?」
「え・・・あ、えっと、魔女っ子シリーズ、です・・・・。」
友見が答えると夜実は可笑しそうに口元を歪めた。
「ふふっ・・・・。同じクラスなのになんで敬語なの?」
「あ、ごめんなさい・・・・。その、話しかけられると思わなくて・・・・。」
「謝ることないけど・・・君、面白いね。」
それから、夜実は友見に話しかけるようになった。
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