え、ちょっと、もういっかい言って?

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1つ霧が晴れたような私の身体に、アルコールが回るのは早かった。 「確かにYouTuberだって苦労してるんだろうね...私が知らないだけで...。」 「だろ? もしかして、応援する気になった? 」 「んーん...まだモヤモヤしてる...嫌だって思う...。」 「じゃあ、それ1個ずつ、なんで嫌なのか考えていけばいんじゃね? 」 「あぁ! なるほど! そっか!そーよね! なんで嫌なんだろうって、1個ずつ考えて解決していけばいいのよね! 今みたいに! 」 「そうだよ! 俺はなんかあったらいつでも話聞くし? 」 「さっすが花ちゃん! 」 「だろー? 」 ハイテンションでそんなことを話したのは覚えている。 おかげで、花ちゃんだけでなく私もタクシーのお世話になった。真っ暗で、珍しく星が綺麗に見える住宅街の夜に降ろされて。ぼんやりした目で腕時計を見たら、深夜2時。夫に、「なんでそんなになるまで外で飲むわけ」って玄関先で怒られた。気がする。 でもとにかく、気付いた。 なんで夫がYouTuberをやることが嫌なのか、ひとつひとつ紐解いていけばいいんだ。 「ねぇちょっと。座って。」 「何? 」 少しだけ頭痛がする朝、私は朝食も食べず夫にそう促した。 夫はまだ怒っているようにもめんどくさそうにも聞こえる返事をして、私の前に座ってくれる。 「私ね。昨日考えたの。」 「何を。」 「貴方がYouTuberになるってこと。」 「うん。」 「私は嫌なんだけど。」 「え、嫌なの? 」 「うん。」 「そうか。」 「でも、『なんか嫌だからやめて』じゃあ貴方も納得しないと思ったの。」 「そうだね。」 「だからこれから、何で嫌なのかを1つずつ考えていこうと思う。」 「うん。」 「私がモヤモヤした気持ちがなくなるまで、動画配信はやめて欲しい。」 「うーん...。」 これだけじゃ、動いてくれないだろうか。 強情な性格を、私はよく知ってる。 何か、夫にメリットを提示しないと。 「モヤモヤが全部解消されたあと、私が『応援しよう』か『やっぱりやめて』かどう思うかわかんないけど、どっちに転んでももう何も口出ししない。」 「うーん。できれば応援してほしいけど。」 「それはその時になんなきゃわかんないから。」 「うん。まぁ、いいや。」 「うん。」 「でも、期間決めて欲しい。」 「期間? 」 「1年経っても、『まだ解消されてないから駄目』とか言われたら、流石に腹立つわ。」 「例えばどのくらい? 」 「1ヶ月。」 「1ヶ月!? 」 「いいだろ。本当は今日にでもやりたいのを、1ヶ月我慢するんだから。そう言うなら、1ヶ月きっちり考えて。」 1ヶ月...。 いやでも、確かに私も、揉め事を長く引きずりたくはない。期間が定められていた方が、後回しにせずちゃんと向き合って考えられるだろう。お互いに。 「わかった。いいよ。」 その言葉が、私達夫婦の、1ヶ月戦争の開始合図だった。
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