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「は? 」
「いやだから。YouTuberになろうかなって。」
午後8時。
帰宅した夫は、向かいあわせの夕食中、突拍子もなく口にした。
まるで、「そこの醤油とって」くらいのノリで。
「え? まって。もう1回言ってくんない? 」
「俺YouTuberになろうかな。」
聞き間違いなことを期待したけど、生憎聞き間違いじゃなかったらしい。
「え、え。なんで? なんで急に? 」
全然意味がわからない。
YouTubeが好きなのは知っていた。YouTuberが好きなのも知っていた。休みの日に、よくスマホで見てたから。
でも、だからってなんで?
「いやー。なんとなく? 」
でた。またこれ。
ほんっとにこの人は、よく言えば楽観的だけど、悪く言えば物事を全く考えて動かない。
お金の収支だろうが、デートプランだろうが、考えていた試しがない。
何もかも、「まあ何とかなるだろ」精神。
そう。真反対だ。将来だろうが明日の予定だろうが、ある程度の目処を立てて情報収集をして、実行できそうだと判断した時にようやく取りかかる私とは真反対。
夫のこの性格は、ある時は私を救ってくれる最高の部分だが、ある時は私の理解できる範疇を超える最悪の部分になる。
「いつも言ってるけどさ。なんとなくで決めるのやめてくんない?」
「いやでも、なんかいけるかなーって。」
理解不能だ。
「なんでいけるかなって思ったの?」
「いやだから、なんとなくだって。」
「ほんっとに貴方のそういうところ大っ嫌い。」
「俺は貴方がすぐ嫌いとか言うところが嫌い。」
中学からの腐れ縁、高校からの付き合いの私達に、最早遠慮なんて会話は存在しない。
結婚してからはまだ1年も経っていないが、人生の半分は知り合いだったし、付き合った期間は10年近い。
「いや、普通に考えてさ。生計とかどうすんの? 」
「え、生活費は別々だから、別に良くない? 」
お金での揉め事は嫌だから、金銭管理は別々にしようと提案したのは私だ。
将来用に毎月お互い3万ずつ貯金する口座はあるが、それ以外は全て折半。
お金だけでなく、家事も。勿論、お互いが忙しい時は手助けするけど。
結婚したからって、相手の生活をどちらかが負担しなければいけない意味がわからない。自分のことは自分でやればいい。そういう考えで、私達は籍こそ入れたが、実質シェアハウス状態だ。
お互いに、家賃光熱費諸々の折半ができて貯金も今まで通りしてくれるなら、何の問題もない。
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