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「お金はまあ、今までなんとかなってたから置いておいて、時間的に大丈夫なの? 最近帰り遅いじゃん。」
「まぁ、なんとかなるでしょ。バイトなら今までより融通きくし。」
「えっ。仕事辞めるってこと? 」
「うん。だから言ったじゃん、YouTuberになりたいって。」
目眩がしてきた。
「え、は? 本当に意味がわからないんだけど。」
「意味がわかんないんじゃなくて、理解しようとしてないだけだろ。」
そう言って彼は、ため息をついた。
いや、ため息つきたいのはこっちの方。
「もう、今日はいいわ。」
少し怒った顔をして、夫は夕食を片付け始める。
お皿には、まだ半分ほど夕食で食べ切る予定だったはずのものが残っていた。
「ちょっと。」
「また今度話す。」
夫はそう言って、食器を流しに置いて、目も合わせずに自室に籠った。
こうなったら、まともに話ができないことはお互いにわかっていた。
向こうも無理に話を続けないし、私も自室に入る彼を引き止めない。
そもそも、YouTuberって?
そんな、自分の仕事になるようなことなの?
残った夕食を1人でちびちび食べながら、スマホを取り出す。
行儀が悪いのは百も承知だけど、今は自分以外誰もいない。
子どもの悪い見本になる心配もない。
本当は、そろそろそんなことも考えたかったけれど、夫の衝撃発言のせいで暫くはお預けだ。
検索サイトを開いて、「夫 ユーチューバー」と調べる。
困った時、私はいつもネットを立ち上げてしまう。別にネットに答えがあるとは限らないけど、色々な情報があるのは事実だ。あと、何となく気が紛れる。現代人ぽいなぁと、自分で思ってしまう。
スマホの画面には、検索ボタンを押した瞬間ずらりと検索結果が並んだ。なんだか動画ばかりだ。どうやら、夫婦でYouTuberをやっている人達がネットにあげているものらしい。
だけど生憎、私は夫と一緒にYouTuberになるつもりはない。
看護師で食べていく生活も4年目に突入して、今年からは念願の小児クリニックで働くことになった。性に合っている上に安定した収入が入るこの仕事を、私は手放す気は無い。
下にスクロールすると、ネット上に質問を投げかける掲示板を見つけた。匿名で質問ができ、それに匿名者が答えてくれるシステムだ。
タイトルは、『旦那が仕事を辞めてユーチューバーになろうとしています』。
これだ。
私は反射的にその文字をタップする。
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