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午後6時半。
花ちゃんが予約したお店で、1杯目のお酒が運ばれてくる。
私はレモンサワー、花ちゃんは生ビール。
「かんぱーいっ」
「おつかれー。」
薄暗い部屋で、オレンジの明かりに照らされる2つのグラスを当てて音を立てる。
ぐっと飲むと、少し強めの炭酸が喉を通って痛いくらい。だけど、お酒以外で炭酸を飲まない私は、この感覚が「飲んでるなー」という感じがして好きだ。
「いやー。誘った俺が言うのもなんだけど、暇人だな。」
「暇じゃないですー。クリニック勤めになったのー。土日は休みなの。」
「クビ?」
「なわけ。奨学金借りる時の契約だった3年勤務が終わったの。で、いいタイミングだから辞めて、本当に行きたかったとこに行った。」
「あぁ。そんなこと言ってたような気もする。」
「そーでしょー? ちゃんと覚えといてくださーい。」
「お前の話覚えるより大事なことがいっぱいあんのー。」
この男は相変わらず、可愛いのは顔とあだ名だけだ。
苗字に花が入るから、中学の時からずっと「花ちゃん」と呼ばれていた。
「どう? 楽しい? 」
「なにが。」
「クリニック。」
「んー。うん。まぁ、そんなに忙しい所じゃないし。」
「へー。」
「下手したら病棟より子どもとちゃんと関われてるかも。可愛いよ。」
「良かったじゃん。中学の時からずっと言ってたもんな。」
「私の話なんて覚えてないんじゃなかったの? 」
「お前がしつこいから頭についてただけ。」
花ちゃんとは、中学から高校までずっとクラスが一緒だった。この人とも中々の腐れ縁だ。
実は校内に一時期ファンクラブがあったらしい花ちゃんは引く手数多なはずなのに、なんでか私とよく遊んでくれていた。
恋愛感情を持たずに花ちゃんに接する私が、物珍しかったんだろうか。
何となく馬も合う私達は、高校を卒業し、大学に入り、社会人になっても未だに2人でご飯くらいは食べに行く仲だった。
まぁ、正直いうと、どんな性格でもそこそこイケメンの顔が隣に並ぶのは、嫌ではない。
けれど、この人にそんなこと気付かれるのはすっごく癪だから、絶対に態度になんか出さない。
花ちゃん相手に女らしい感情が湧く自分自身にも、若干寒気がする。
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