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何を言っているのかわからない、という顔で私を見ながら、花ちゃんはグラスに口をつける。
「あのさ。私が好きな俳優さんいるじゃん。」
「あぁ。あのな。イケメンのな。俺ほどじゃないけどな。」
「は? 」
「ごめんなさい調子乗りました。」
「あの人は世界1かっこいいから。花ちゃんなんか足元にも及ばないから。写真みる? 」
「見ねーよ。てかなんで急に俳優の話になったわけ。」
「あ、そう、だからさ、その人のこと私凄い好きじゃん。」
「『私○○だから〜』って言う女嫌いだけどな。うん。好きだね。」
「煩い。でさ。やっぱさ、その人がどれだけ苦労したのかな、とか、インタビューとかで見てるわけよ。オーディション落ちまくってたとか、監督に怒られすぎて現場行きたくなかったのに行かなきゃいけない日もあった、とか。」
「あー。」
「YouTuberってさ、テレビよりも敷居低いっていうと語弊あるけど、やろうと思えば誰でもできるじゃん。テレビはそうはいかない。芸能人になりたいけどオーディション行くほどじゃない人がYouTuberになって、誰かが可愛いとか面白いとか見つけて、そこそこ人気になるっていうか。そういうの、なんかずるいって思っちゃうかも。」
「うーん...。それは、YouTuberの苦労してる面を見てないからじゃね? 」
花ちゃんはグラス片手に、私にそう言った。
「...確かに...それはそうかも...。」
「うん。その人達だってさ、インタビューされないから表に見えないだけで。本当は、苦労してる部分もあると思うよ。」
「そっか...。」
「俺もあんまり見ないから、詳しくはないけどさ。テレビだと、プロデューサーとかタレントとか編集する人とか? 何10人もが手分けしてやってる事を、1人または数人でやっていかなきゃいけないじゃん。大変だと思うよ。」
「うん。」
「それに、そこまでして作った動画が、全く見てもらえなかったり叩かれたり。1人で作ってたら、嫌な意見も全部1人で背負わなきゃいけないじゃん。」
「うん...。」
「それに、近道の何が悪いんだよ。近道できるなら皆するだろ。」
「...たしかに...。」
珍しく長々と喋る花ちゃんの言葉を聞きながら、私もグラスに口をつける。
確かにそうだ。
私はいつも、視線が一方向だ。自分が好きな方しか見ていない。
花ちゃんはいつも、そういうところは客観的だ。ちゃんと俯瞰的に見れる人で、私の意見を裏側から見てくれる人。私が全く考えていなかった面を、サラリと表出してくれる人。
だからすんなり、受け止めてしまう。
「まぁ、だからといって、仕事辞めてYouTuber転職はどうかと思うけどな。」
それで、最後は必ず私の味方をしてくれる人。
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