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まぁ、そんなことがあって、今は中庭である。私は、上から聞こえてくるアホ2どもの声に頭が痛くなり、ため息を漏らしてしまったのだが。
「どうかしたのか、じゃありません!上から聞こえてくる凛の声はなんなのですか!?」
ギャーギャーと言う声からの頭痛が治まらず、頭で鳴るドラム音がさらに強くなり、もはや除夜の鐘レベルだ。「あー……真姫ちゃんが今日休みだからねー。抑える人がいないんだよ」「なぜ休みなのですかぁ……真姫ぃ」「むむ!?私だって凛ちゃんを抑えられるもん!りーんちゃーん!!」
「耳元で叫ばないでください!」
他の生徒に助けを求めるも、みんな苦笑いを返してくるだけ。
「相変わらずねぇ……」
やれやれ、というポーズをする3年生を見つけ、顔を上げる。
「絵里ぃ!助けてください!」
「海未、久しぶり!2年は修学旅行だったし、しばらくは会ってなかったわねー」
「あー!絵里ちゃん久しぶりー!」「あ、穂乃果ー?海未がいろんな意味でヤバいから静かにしてなさい?」「はーい」
絵里が頭を撫でながら穂乃果に注意すると、穂乃果は素直に従い、もっともっとと、ぴょこんぴょこんと跳ねながら頭を撫でることを要求する。はいはい、と優しい目をしながら続ける絵里と、えへへ、と言いながら気持ち良さそうに身を委ねる穂乃果は、一見すると姉妹のように見える。って、ヤバいってなんですかヤバいって。
「あ、そうだー。絵里ちゃん、今日だからねー?」
「…………ああ、そっか。そうね」「もー、忘れちゃダメでしょー?」「ごめんごめん……」
「ほーのかちゃーん!?そこにいるのって、もしかして絵里ちゃーん!?」
またうるさい声が聞こえる。
「………ごめん、今すぐに凛のところに行ってくるわ。穂乃果、海未を保健室に連れて行ってくれる?」
「へ?なん……うん、今すぐに!」
視界から綺麗な金髪がいなくなったと思ったら、オレンジが映る。
「………海未ちゃん、行くよ」
「はい?」
「保健室、行くよ」
手をガシッと掴み、ズルズルと引きずられる。
「な、なんでですか……!」
振りほどこうとしているのに、できない。これは、穂乃果の力が強い……んじゃなくて、私の腕に力が入らない…?
「…………早く」
「ま、まってくださ……い」
「あー、もう!大人しくしてて!」ヒョイっと横抱きにされる。ん?横抱き……?
「急ぐよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!まさか、これって……」
私の声は、右耳から入って左耳からそのまま出てしまっているようだ。いや、でも、これ……。中庭を走り抜ける私たちを見て、生徒達から色々な声が上がる。
「えっ……!?」
「うそ………」
「………!」
「おおー……叶ったのか……」
などなど。上の3つはわかりますけど、1番下はなんですか?叶った?なにが?
「叶ってない!」
穂乃果は、軽く睨みを利かせて叫んだ。
「おぉう………失礼しました」
降参ポーズをしながら返す人に、ただただ信じられない、と目を見開く人。うん、私もです。まさか、あの、あの、アホのかにお姫様抱っこされる日が来ようとは、ね。真面目な生徒会委員の園田海未が、生徒会なんかどこ吹く風の、へ?なにそれおいしいの?レベルの高坂穂乃果にお姫様抱っこされながら校舎を走っているのだ。逆ならまだ頷かれただろう、私がする方ならば。だがしかし。私は、抱かれるほうなのである。what!?とでも言いたいところだが、残念ながら絵里のようなクォーターではなく、生粋の日本人なので、そんなことを言ったらただのキチガイになってしまう。今すぐにでも叫びたい気持ちを押さえつけ、取り敢えず穂乃果の顔を眺めていよう、と言う謎すぎる思考に至った私は、ジーッと穂乃果を見つめた。いつも当たり前すぎて、そんなにじっくりと見たことのない穂乃果の顔を改めて見ていると、やはり整っているんだなぁ、と思った。くりっとした大きな瞳。太陽にキラキラ反射するオレンジ色の髪。ほのかに香る、甘い香り。うん、可愛い。私の幼馴染は文句なしに可愛い。
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