5話 園田海未の憂鬱

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その夜。 ガーリックペッパーをかけた小さなチキンを食べていると、ガラガラっと玄関から音がした。 ことりが帰ってきたのだ。 私は席を立ち、玄関へ向かった。 「………」 帰ってきたことりは、顔を真っ赤にしていた。 よく見ると、外は真っ白だった。 「ことり、おかえりなさい」 話しかけても反応なし。 見たこともないことりに、少し戸惑いながら、「寒かったでしょう?お風呂沸いてますから、入っちゃってください」と言っておく。 「……ょ…は………ろ……?」 「はい?」 ことりがブツブツ何か言っているので聞き返す。 「………しょに」 「?」 「………一緒に、はいろ?」 「……………………はい?」 聞こえた。 確かに聞こえはした、けど。 「だ、ダメです」 「………なんで?」 「んなっでっ…………って………」 「………」 「そ………れは…」 「………」 「………と、とにかくダメです!」 真っ赤になっているのがわかる。 頰が熱い。 「なんで?」 「いや、ですから、その………」 「………うみちゃんの、ばか」 「何故」 私の頭とこの件は全くもって関係ありません! 「もう、いいもん……」 ふらっと、ことりが倒れそうになるのを抱きとめる。 「っと…………ことり?」 「っ……なんで」 「なんで、と言われましても……無理です」 開けっぱなしになっていた扉を閉め、とりあえずリビングに戻ろうとした。 「そっちじゃないもん……!」 「それ以外に何があると」 「穂乃果ちゃん!」 ピクッと、私の動きが止まった。 寒い廊下から温かいリビングに早く行きたいのに、足がうごかない。 「………なんで驚いちゃうの……?」 「…え、や、普通驚きます」 「驚かないもん!ていうか、そろそろ察してよ!」 「何をですか!?」 「私の気持ち!」 どう察しろと!? 「だって、今日穂乃果ちゃん、言ってたもん……!」 「何をですか…!」 「海未ちゃんと……………」 「海未ちゃんと……!?」 「……………」 「………あれ、ことり?」 「……………」 散々暴れようとしたら、今度はおねんねの時間ですか。 とりあえず、ことりを横抱きにしてことりの部屋に運ぶ。 二階へ続く階段を登り、奥のことりの部屋に入る。 可愛らしい部屋の中のベットに横たわらせて、寝かせておく。 ……………着替えさせた方が、いいですよね? ことりのクローゼットから、パジャマらしきものを取り出し、横に置いておく。 …………さて、ここからが問題です。 いかにことりの身体を見ずに着替えさせらることができるか。 ………とりあえず、電気は消しましょうか。 扉の横にあるスイッチを押す。 パチッと部屋の電気が消えた。 ベットの上に乗り、窓に手を伸ばした。 カーテンも閉める。 これで準備はできました。 ベットの上に寝かせたことりを脱がせやすいように立たせる。 ことりのブレザーのボタンに手をかけ、スルスルと脱がしていく。 少しだけ変な気が起きたような気がしたが、不屈の精神で沈める。 シャツも脱がして、その次はスカートに手を伸ばす。 「………下着は………いいですよね」 下着姿になったことりを、パジャマ姿にさせていく。 にやけそうになる口元を引き締め、真顔で着替えさせる。 大丈夫、全然見てない。というか見えない。 パジャマに着替えたことりを、ベットに寝かせる。 三十分だけ寝かせ、その後にお風呂に入ってもらおう。 空腹を感じ、リビングへ戻る。 ガーリックペッパーチキンを平らげ、お皿を洗ってからカレンダーに明日の予定を貼り付けた。 まだ少しだけ時間があるので、私も少し寝かせてもらおうとコタツの中で横になる。 目を閉じてすぐに訪れた眠気に身を任せ、眠りの世界へ落ちていった。
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