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6話 ことりの気持ち
「ごめんなさい!」
目の前には、ことりの土下座姿。
理由は一目瞭然、昨日、一人で帰って来たことりは私に謎の要求をして来たのだ。
一緒にお風呂に入ってほしい、という破廉恥すぎる要求を。
「いや、まぁ構いませんよ……とりあえず頭をあげてくれます?」
明日は徹底的に怒ってやろうと思ってはいたのだが、流石に土下座されるとはまったくもって思っていなかったので、若干引き気味で声をかける。
それに、一つ聞きたいことがあるから早く顔をあげてほしい。
「海未ちゃんの気持ちを考えないで、あんな子供っぽいことを言ってしまいまして、本当に申し訳ございませんでしたぁ!」
頭をあげる気配はまったくない。
どうしたものか、と頭を悩ませる。
グダグダそんなことを言われても、したことはもう変わらない上、そもそも謝罪の言葉があればまぁ許そうとも思っていたのだ。
しかしながら現状はこれだ。
「それに、先ほどはとんでもない勘違いの後ご迷惑をおかけしてしまって」
そう、ついさっきまでことりは泣いていたのだ。
私が自分のベットから抜け出し、朝ごはんを作っていたらバタバタと起きて来て、リビングの扉をガラッと開け、何かを探すような音を出しながら騒ぎ始めた。
味噌汁の匂いを嗅ぎつけたのか、キッチンに騒がしく向かって来て、情けない声で私の名前を呼びながら私に抱きつくとすぐに号泣。
何事かと聞いてみると、海未ちゃんが愛想つかしていなくなったのかと思ったの、だとか。
なんとか宥めると、いきなり土下座。
そして冒頭に至る。
「本当に申し訳ないです……」
「まぁ、その、私は苦笑いするしかないんですが……」
その言葉通り、苦笑いをしながらことりに言った。
「なんといいますか……嬉しかった、です」
「へ?」
うるうるした瞳で呆然と見上げることりの頭を撫で、目線を合わせる。
「ちゃんと、好きでいてくれてるんだなぁ、と」
「好き……って、当たり前でしょ?」
心底意味がわからない顔をすることりを見ていると、真姫のあのセリフが頭をよぎった。ふふっと笑い、そのまま続ける。
「私がいなくなったことで、こんなにも泣いてくれるんだ、みたいな?」
「………っ、……ずるい、よ」
少しだけ首を傾げた私の顔を見て、少しだけ笑ったことり。
うん、やっぱり笑顔が1番似合う。
「じゃ、朝ごはん食べましょうか。お腹減ってるでしょう?」
「う、ううん。そんなことな」
直後、控えめなグゥゥという音。
「…………早めに終わらせますね?」
「……お、お願いします……」
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