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「おはようございます」
朝食を食べ終わり、すぐさま実家の道場に来た私は鍛錬をしていた父に向かって声をかけた。
「ああ、おはよう」
普段はフラフラしていて、どこか落ち着かないような父だが、鍛錬…もとい道場に師としている時には、それなりにカッコいいと言えるだろう。
………そのカッコよさを、普段も存分に出していただければ幸いなのだが。
「海未、今日は……」
真顔で問いかける風に話しかけてくる父。道場関連は、私も真面目な顔をして受け答えているので、真面目に聞こうとまっすぐに見つめる。
「……ことりさんとはどうした?」
無駄なタメの後、道場とは全くもって関係のないことりの話を切り出した父の顔は、また、いつもの情けない父の顔だった。
「……はぁ……別に普通ですが」
軽く、ため息を一つだけついてから答える。
父は、少し間を空けてから言った。
「普通か………ちゃんと相手のことを見るんだぞ、そうしないと、花陽の時のように」
「やめてください」
父の言葉を遮る。
「…………悪い、思い出したくもないことを思い出させてしまったか」
少しだけ悲しそうに顔を伏せる父は、なんだかとても小さく見えた。
「……まぁ、とりあえずはうまくやっているようで良かったよ」
下手くそな笑い方で私を見る。
「………………当たり前でしょう?私たちを気にするよりも、他のことに目をやってはどうですか?」
「海未、お前は弓道をやるつもりはないのか?」
「…………質問を、質問で返さないで下さい」
「だが、お前の弓道の才能は」
「うるさいんですよ!」
久々に父に対して怒鳴った気がする。
「………」
「………………怒鳴って申し訳ないですけど」
「…………いや、構わない。今のは俺が悪かったよ、ごめんな」
俯向き、目を瞑る。
私は、頭の中で、ゆっくりと、近づいて来る誰かの気配から、必死に目をそらしながら走り出していた。
早くあなたの声が聞きたい。
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