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由里はお酒が好きであった。専門学校を出て1人暮らしを始めた途端不眠に悩まされるようになった由里は、いつの頃からかお酒を睡眠薬代わりに飲むようになっていた。 そんな辛い毎日を過ごす中、初めて彼に会ったのは何時だったのだろう。何時の頃からか毎日駅で顔を合わすようになっていた。毎朝7時30分の駅のホーム。満員電車の中の彼はいつも遠くの景色を見つめ、由里も彼の視線の先を同じように見つめて電車に揺られる。 年齢は由里より少し上であろう。由里が20歳なので2,3歳位上かそれ以上にも見える。優しそうな目元に、運動でもしているのだろうか。体格の良い体が由里には好印象であった。 朝は必ず彼に会うが、帰りの時間は会う事がなかったがその日は特別であった。まさか帰りの時間、こんな状態で会うとは思っていなかった。由里は忘年会の帰りで少し酔っていたので駅のホームでふらついて転びそうになってしまった。 「大丈夫ですか?」 「はい。すみません」 「あっ。貴方は確か駅から自転車でしたよね」 「よく分かりますね」 初めての会話でドキドキする。 「朝、自転車姿をみかけるので。これから自転車に乗るのなら危ないですよ」 「そうですね。私、忘年会で飲んでしまって」 「良かったら、近くでお茶でも飲んで休んでいきませんか?」 由里は彼でなければ断っていたが、相手は憧れの人である。喜んで承諾した。 駅を出て脇にあるカフェで休んでいこうという事になり、二人はそこへ入った。忘年会帰りと言っても時刻はまだ10時である。カフェはそこそこに人が入っていた。 「初めて話しますね。僕は永井といいます」 そう言って彼は鞄の中から名刺を差し出した。名刺には永井祐樹と書いてあった。
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