9人が本棚に入れています
本棚に追加
Aはある日私にこう言った。ぶっきらぼうに。
「その碧色の髪が欲しいんだけど」
ほぼ間髪入れずに、Aは私の、ずっと綺麗に整えてきたサラサラの髪を掴んだ。私は待って、と慌てて顔を背けようとしたが、Aの手の力は強く、たちまちブチブチと髪が抜けた。私は頭を抑えて呻いた。
「なんて美しいんだろう」
Aは一束の私のものだった髪を持って眺めていた。そして少し顔をうずめてから、何も言わずに扉へ向かった。
「なんで持っていくの!」
私は叫んだが、Aは足を止めることもなく出て行ってしまった。日が暮れてから、Aの笑い声が聞こえ、髪が焼ける匂いがした。
その後ほどなくして、悪夢の日々が始まった。そのあとは、今のことだ。
…あっ。
心が体に回帰してしまった瞬間、右腕にチクリと刺すような痛みを覚えた。注射針だ。時々こいつは変な薬を打ち込んでくる。決まって意識が朦朧としてしまって、何が起こっているのかわからなくなるから、本当にやめて欲しい。今日はしかし違った。よく見てみるとその注射針にはチューブが付いていて、その先にポンプがあるのが見えた。タンクにつながっている。そしてそのチューブを通して、私の血液が出て行っているのに気付いた。それも猛烈な勢いで。
最初のコメントを投稿しよう!