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「これで終わりだ」と、ポンプがタンク一本分の血液を吸い終わったところで、こいつは注射針を引き抜いて、すこし貧血気味の私の胸に顔を埋めて言った。「生きるために、大変なんだよ…わかってくれ」と、神妙に。甘えているようだった。こんなにも痛い目に合わせている相手に甘えるなど、もう、本当に意味が解らない。Aという生き物はとうに私の理解を超越して、複雑になってしまったのだ。
奴はそのあと、私の髪をまた数本乱暴に引き抜いて、部屋を出て行った。困惑を極めた私はしかし、貧血で再び昏倒した。
そんなことが何年か続いた。
珍しく静かに目を覚まし、ベッドの上に置きあがった。起こされずに起きたのはいつぶりだろうか。ゆっくりと呼吸してから立ち上がり、静寂の部屋を鏡に向かって歩いた。まだ、貧血気味だ。それに、少し熱っぽい。
鏡ごしに私の目を見た私は瞬間的に絶望にかられた。
青く澄んでいたはずの目がもはや、どす黒く濁っている。あ、ああ、と嗚咽が漏れた。碧色でサラサラだった髪もその滑らかさはなくなり、すっかり薄くなってしまっている。もう私が、私で無いみたいだ。
動揺して自我が錯乱し、何を思ったら良いのかすらも解らなくて、わあわあ、ただ喚いていた。気づいたAが慌てた様子で入ってきた。
「おい、どうした、アイナ」
「目が、目が…もう駄目になっちゃった…」
驚いた様子でAは私の目を見た。
「本当だ…こいつはひでえや、あの青い目を失って、髪までなくなったら、お前にはもう存在意義もねえ」
え…?何を言っているのこいつは。
心のどこかで期待していた言葉はそこにはなかった。
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