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「忘れてなんかいないさ。むしろ、感謝しているよ。だけど、俺は俺の限界をどんどん塗り替えて進化していくんだ…アイナの髪や血は俺の進化のとてつもないエネルギーになってくれたよ。ハハ…もしアイナが駄目になってしまったら、俺は次の宿主を探さなくちゃなんねえんだ」奴はあっさり言い放った。「アレスのことはもう調べてあるんだ」私にはもう、前がはっきり見えない。足元もフラフラだ。でもこれだけは言わなくてはならない。
「無理、だよ」
「なぜ。俺はすべてを可能にするんだ。たとえアイナを踏み台にしたとしてもね」
「無理だよ。私が、生み出した存在は、私から、離れることは絶対にできない」
ドスッ…と鈍い音がして、奴の拳が私の腹に入った。
「何を言ってんだよ、物理的な制約は、最早なんもねえんだよ」
奴はそう言ってへへっ、と笑い、部屋から出ていこうとした。くそっ、もう何を言っても通じない。私は何が何でも奴を阻止しよう、と思った。もしここで私の心臓を握りつぶしてしまえたならば、心の奥底から溢れ出す熱い炎で、奴を本気で滅殺することができるかもしれない。しかしそれは私の死をも意味する。ああ、私はこいつがアレスを手にかけることを、傍観しているしかできないのか?…奴はドアノブを掴んだ。
その瞬間だった。
ピカッ、と強烈な光が視界を包み、猛烈な爆発音が耳をつんざいた。えっ、なに?と思うが早いか、奴の姿は蒸発した。視界にあった全てのものが次々と消滅していくのが見えた。真っ赤な火球が私を包みこむ。
私は火球の中で、意識を失うことなくすべてを見ていた。
………
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