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(すっかり遅くなったな)
会社を出て、地下鉄駅に駆け込もうとすると、初老の女がゆっくりと近づいてきた。
(誰だ? 薄気味悪いババアだな)
走り抜けようとすると、女が近寄ってきた。
「あの、すみません。大興の方ですよね。皮武良さんという方、知りませんか?」
嫌な予感がする。まさか、こいつ。
「私は、凍水という者ですが。私の家に、これが遺されていて」
女は、ノートを差し出し、あるページを開いた。
(凍水の女房か。まさか、ばれたとかないよな)
オレは、シラを切った。
「さぁ」
「今朝、変な人が『旦那のオレを忘れたのか!』と怒鳴って、家に居座ってて」
オレは、つい話を聞いてしまった。
「警察に通報してください。急いでるんで」
「ええ、警察に連絡したら、大慌てで出て行ってしまって。そのあと、電車に飛び込んだらしくて」
そういう顛末だったかと、オレは合点がいった。
「それ、見せてもらえませんか?」
オレはノートを奪い取ろうとした。
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