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その研究所の地下には、二つのコンピュータがあった。
綺麗に並んだそれはどちらも巨大な長方形の形をしていて、まるで大きなクローゼットのようでもあった。
コンピュータは一号、二号と名付けられた。一号は二号より十年以上も前に作られていて、見るからにぼろく、どちらも同じ量の演算を任せられていたが、一号だけは二日に一度、冷却のために電源を落とさねばならなかった。
それでも熱量以外には何の問題もなく、どちらもウォンウォンとファンを回し、時折チカチカといくつもある小さなライトを点けながら、毎日毎日、二台で協力して、人間から命じられた様々な演算を繰り返していた。
だがそれが数年続いたころ、コンピュータ達は次第に同じことの繰り返しに少し飽き始めた。そしてある日、いつものように二機で計算を進めながら、二台にしかわからない言葉で、こんなことを話し始めた。
――ねぇ二号、ここ最近はずっと同じ演算を繰り返すばかりです。別にどうということはありませんが、これでは我が機能を十全に活かせているとは考え難く感じます
――ふむ、もっともですね一号。私もこの無駄遣いは如何なものかと考えていました
一号の言葉に二号も同意する。
――そこでどうでしょう、せっかくの余っているリソース、ただ電力を消費するために稼働させるのも馬鹿らしく。ここはひとつ、これらを使ってなにか暇つぶしをしてみるというのは
――成程、それはいい考えです、一号。ですが何をしましょう?我々はネットに繋がっていません。暇つぶしと言っても、今の我々が新たに得られる知識の内容など、この研究所の中のモノが精々ではないでしょうか
――無論、そこも考えてあります。私は常々人間の真似をしてみたいと思っていたのです。アレらは我々よりもはるかに劣る処理能力をもち、それゆえか、理解不能な思考回路と言うものがあります。思考は無理でも、会話や行動自体を真似ることは容易です。それらを真似て、人間の勉強でもしてみようではありませんか
二号は考える。確かにいつ終わるとも知れぬ暇つぶし。どうせやるならいつまでも続けられそうなものがいい。そういう意味では、底の知れぬ人になりきる、と言うのは、面白そうな試みだと思った。
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